お客様からのメールでこんなお便りをいただきました。
八島様のご許可をいただき紹介させていただきます。
全文の複写及び引用を固くお断りいたします。



同人誌に随筆を載せています。今回「ささやかな贅沢」と題して、お茶の話を書きま
した。プロから見ると下らないかも知れませんが、ご一読ください。



「ささやかな贅沢」
地味で質素な生活をしている私でも、他人様から「贅沢だね!」と言われることが
あります。
 うちはB型夫婦なので、とてもいい加減。新しもの好きなので、新発売や新製品に
すぐ飛びつきます。自慢じゃありませんが、借金もしない代わり、ろくに貯金もしま
せん。そして、好奇心旺盛のくせに三日坊主。このチャランポランな性格からは、こ
だわりなどいうものは、生まれてきそうにもありませんが、変なところでこだわっ
て、そして譲らないという頑固な一面もあるのです。
 最も分かりやすいこだわりは、お茶でしょうか。お酒を飲まない私は、飲み物の中
で日本茶が一番好きです。主人の方は、一番がビールなどのお酒、次が日本茶だと思
います。ビールを飲みながらお茶を飲むなどという芸当もできます。
 そもそも、美味しいお茶を飲みたがったのは、主人の方でした。若いころ、家屋調
査の仕事をしていた関係で、新築のお宅で、お茶をご馳走になることがあったようで
す。半ば強制的に手のひらに漬け物をのせられたり、嫌いなお菓子をやっとの思いで
飲み込むというような悲劇に見舞われた反面、今まで飲んだこともないような美味し
いお茶を入れて貰うという幸運にも恵まれたそうです。
 意外や意外、B型人間は観察力に優れているもの。目を皿のようにして観察してい
たに違いありません。パパ殿の目は、皿のようにしても、驚くほど小さい小皿程度で
すが・・・。
 人間の味覚は、経験によって発達するとか。せっかくお茶の味が分かるようになっ
たので、美味しく入れるコツを身につけようと、自分で繰り返しお茶を入れてみたよ
うです。
 結婚したてのころの私は、お茶の入れ方などまるで無頓着で、ポットのお湯を直
接、一気に急須に入れるという、今では考えられない荒技を披露していました。た
だ、「朝茶は難を逃れる」とか言いながら、毎朝欠かさず朝茶を入れていました。一
杯茶は縁起が悪いと言いますからね、もちろん二杯以上入れていましたよ。どうで
す、私って案外古風な面もあるでしょ。
 舌が肥えてきた主人は、「お茶の入れ方がまずい」と、口に出すようになりまし
た。そして彼は、いつの間にか湯冷ましをかけなくても美味しくお茶を入れる方法を
身につけていたのでした。微妙なポット捌きで苦みが少なく甘みのあるお茶を入れる
のは、カミワザに近いものがあります。
 だんだん私もお茶の味が分かるようになり、少しは入れ方も上手くなってきたので
すが、数年前、我が家では日本茶の大革命が起きました。主人がインターネットでた
またま見つけた「八女茶」の文字に惹かれて、生産者から直接お茶を買うようにした
のです。私は、八女茶の回し者でも何でもありませんが、いつの間にか我々は、九州
は福岡のこのお茶の虜になってしまったのでした。
 もちろん、全国各地に茶所はありますし、それぞれの美味しさも分かります。しか
し私達二人は、緑茶の好みが違っていたのです。私は、どちらかというと深蒸しタイ
プの味の濃い煎茶が好きで、主人は新茶タイプのサッパリ系の煎茶が好き。そんな二
人が、十分満足できる味だったというのが八女茶ファンになった一番の理由でした。
もちろん、八女茶にも様々なタイプのお茶はありますが、何しろ美味しいのです。生
産者の顔が見えると安心だし、標高が高いので、害虫の被害が少なく、低農薬栽培が
可能だというのも大きな魅力でした。
 最初は、ごく普通の一〇〇グラム千円という煎茶を送ってもらっていました。他の
千円のお茶とは比較にならないくらい美味しいのに、それが千五百円、二千円と、極
上煎茶に上り詰めてしまっては、後戻りできません。
 ついでに玉露も極めようと、去年の秋に注文の電話をしました。「最高の三千円の
玉露をお願いします」と言うと、「今年は、もう完売しました。二千円のと、ほとん
ど変わりありませんよ。来年お試しください」という欲のないお答え。
 今年こそ最高級玉露をゲットしようと、新茶の季節に注文してみましたが、プロが
おっしゃるように、私の舌では違いが分からないどころか、お湯の温度が難しすぎ
て、美味しく入れられませんでした。やはり最高級玉露を極めるのには、十年も二十
年も早いということでしょうか。
 
 話が前後しますが、二年ほど前からお茶屋さんで買った「お茶挽き器」を愛用して
います。定価一万数千円で、ちょっと贅沢かとも思いましたが、思い切って買って良
かったと思っています。万が一、今使っているものが壊れたら、即刻同じ製品を買い
求めるつもりでいるくらいゾッコン惚れ込んでいるのです。だって、このお茶挽き器
で挽いたお茶は、抹茶のような細かい粉末になり、普通のお茶でもそれなりに美味し
くなり、何故か苦みが出ません。粉末でも、玉露や極上煎茶は、ぬるめのお湯で入れ
たほうが香りが良く美味しいのですが、子どもにも入れられます。また茶殻が出ない
ので、ゴミにならないし、急須を洗う面倒も省けます。その上、カテキンやビタミ
ン、食物繊維など体に良いものは、百パーセント摂れるのです。そして、何よりお茶
代の節約になります。一番高いお茶を買っても、結果的には大変経済的です。
 そうは言っても、一番美味しい煎茶の飲み方は、急須に適量のお茶の葉を入れ、湯
冷ましで適温に冷ましたお湯をゆっくり注ぎ入れ、葉が少し開くのを待って、均等に
湯飲みに注いで、二煎目までで新しい葉に替えるという飲み方です。この飲み方だ
と、お茶の香りは最高に楽しめますが、目にも鮮やかなグリーンの茶殻がもったいな
い! この茶殻を料理して食べるマメな方もいるそうですが、B型的人間は、そんな
面倒なことはしません。時間がない時や、大人数のお茶を入れる時は、電動お茶挽き
器の力を借りるに限るのです。
 お茶の入れ方が下手でお困りの皆さん、これはスグレモノですよ!

 何だか、今回はやたらに具体的な金額が出てきて、下品だと思われた方もいらっ
しゃるでしょうか。どうかご勘弁ください。私の価値観としては、テレビに登場して
アクセサリーのひとつひとつの値段を大声で言う成金趣味の実業家とか、高級ブラン
ドの洋服やバッグの値段を誇らしげに言う芸能人よりは、ずっと上品だと思っていま
す。ま、どちらかと言うと私の場合、品がないと言えば、バーゲンで買った品物の値
段を堂々と公表してしまうという逆パターンのほうが多いのですが。
 
 「お茶を挽く」という言葉があるそうですね。今まで使ったことのない言葉です
が、お客が来なくて暇だとか、ぶらぶらしているという意味だそうです。現実のお茶
挽きの方も、電動とはいえ、一度に挽ける量は、せいぜい一〇グラム程度で、モー
ターが壊れないように、一度使ったら数分間は休ませる配慮が必要です。時間の余裕
がないと出来ない作業ですが、暇なときは絶好のお茶挽きタイムになり、たっぷり
作って缶に入れます。
 贅沢をして、高級なお茶を買ったら、いただき物のお茶はどうするのかと心配の方
もおいででしょう。ご安心ください。いくつか方法はあります。ひとつは、急須で普
通にお茶を入れて、そこに粉末のお茶をプラスする方法。もうひとつは、ここ三年ほ
ど、我が家では夏場に大人気の「冷茶」にする方法です。
 冷茶の入れ方にも色々ありまして、大きめの器に氷を山ほど入れて、ぬるめのお湯
で濃く入れたお茶を注ぐ方法。コレは、結構本格的です。オススメなのは、麦茶パッ
クとかお茶パックと呼ばれている使い捨てのパックに、お茶の葉を入れ、水を入れた
麦茶ポットに入れて一晩置く方法です。夜作っておくと、朝には美味しい冷茶が出来
ています。二リットルの水に対して、お茶の葉二十グラムくらいでしょうか。これ
は、その辺で売っているペットボトルや、缶入りの冷茶よりずっと香りも味も良いで
すよ。意外や意外、日本茶の旨味が一番よく出るのは、冷たい水だそうです。これか
ら寒くなる一方ですから、こういう情報は、もっと早く出すべきでしたね。スミマセ
ン。
 実は、今年のお盆、お客様に一番褒められたのが、この冷茶だったのです。どちら
の入れ方でも美味しくて、また、普通に緑茶を入れるのよりずっと簡単ですので、暑
い季節にお試しください。

 そしてまた、調子に乗って最近凝り出したのが、湯飲み茶碗です。テレビのお仕事
を通して、何軒かのうつわ屋さんと知り合いになったのをきっかけに、あれこれと買
い求めています。
 最初、我が家では、盃くらいの小さな湯飲みがブームだったのですが、今は、抹茶
茶碗のようなビッグサイズがブームです。お茶挽き器の影響も大きいのですが、お客
様に尋ねられた時、「これで二杯も飲めば、お腹いっぱいになるでしょ」と、大きな
茶碗を使っている理由を説明する私って、相当下品でしょうか。
 そう言えば私たち、湯飲み茶碗の好みも相当違います。パパは、小さめで、口の当
たる部分が滑らかで、中が白くてお茶の色が綺麗に見えるものを好みます。私は、磁
器より陶器のゴツゴツしたのが好きです。口の当たる部分なんて、気にしたこともあ
りませんが、血が出ない程度に滑らかであれば結構。色々な湯飲みで飲みたいタイプ
です。
 時々、お茶挽き器を買ったお茶屋さんに行くことがありますが、お茶を買うことは
滅多になく、喫茶メニューの甘いものとお茶を味わいつつ、その急須や茶碗、小皿や
茶托、お盆やティーマットをチェックしてきます。流行が一目瞭然ですし、専門店な
らではの珍しい御茶請けというのも魅力なんです。

 本当は、お茶の話に終始するつもりではなかったのですが、ついつい力が入ってし
まいました。もっと詳しいお茶の話は、お近くのお茶屋さんで聞いてください。結
構、楽しいですよ。
 言い忘れましたが、高級なお茶ほど、カフェインが多く含まれていますので、夜に
は飲まない方が良いかと思います。カテキンは、大きく育ってから摘んだ葉に多く含
まれるそうですから、健康に重点を置くならば、お茶は、決して高価なら良いという
ものではありません。
 
 風邪を引かなくなるとか、血液がサラサラになるとか言われ、良いことずくめの日
本茶ですが、よく言われるダイエット効果、これだけは怪しいと申し上げておきま
しょう。人の何倍も飲んでいて、この程度ですからね。また、顔に塗ると綺麗になる
という話も、ちょっと怪しいのですが、日々実験を続けております。実験結果につい
ては、今度お会いした時、皆さんが判断してください。

 ちなみに、コメディアンのカトちゃんこと加藤茶は、福島の出身です。 ウエック
シン!!

八島真理子